< 引用その2 >

 倫理というのははっきりしている。有名なヒューマニストたちとのあいだにはいかなる友情もありえない。わたしと彼らとは両極に置かれているのである。彼らのうち誰もわたしは信じていない。彼らのうち誰ひとりとして、なにもよいことをわたしにしてくれなかった。それで、わたしに向かって質問する権利が彼らにあるとは認めない。彼らには、そのような倫理上の権利もないし、わたしにお説教をする資格もないのである。
 これまで一度も、わたしは彼らの質問に答えなかったし、これからも答えないだろう。彼らのお説教を一度も真に受けなかったし、これからも受け入れないだろう。わたしの背後には、灰色で不幸な人生のにがい経験があり、わたしの教え子たちがその経験をくり返すのを、少しも嬉しいとは思わない。教え子たちもやはり、有名なヒューマニストたちを信用していないが、それは正しいことである。
 これはよくないことだ。もしも彼らが信用することもでき、機会があったら、小さな花、友情、平等、自由、フットボールのヨーロッパ選手権、そのほか、そのような高尚なことがらについて語り合うこともできるような有名なヒューマニストを見つけられたら、わたしも嬉しく思うことだろう。しかし、そのようなヒューマニストはまだ生まれていない。つまり、ろくでなしばかりがいやというほどいるのだ。しかし、彼らと語り合う気にはなれない、ほんのわずかの外貨のために、あるいはキャビアの罐詰ひとつのために、彼らは裏切るのだから。
 それだからこそ、わたしのいまわしい例を見て、わたしの優秀な教え子たちがヒューマニストたちとの友情を拒否している事実に悲しい満足を覚えている。孤独を味わわないために、ぜひとも飼い犬を手に入れるよう、わたしはおすすめする。
 ヒューマニストを信じてはいけない、みなさん、予言者を信じてはいけない、有名人を信じてはいけない。彼らは二束三文で裏切るのだ。誠実に自分自身の仕事を果たしなさい、人々を侮辱せず、助けるよう努力しなさい。一気に全人類を救済しようと努めてはいけない。まず、せめて一人の人間でも救うように試みなさい。これははるかに困難なことだ。ほかの人を傷つけないようにして一人の人間を助けるというのは、たいへんむずかしいことである。信じられないほどむずかしい。それだからこそ、全人類を同時に救済したいという誘惑が出現するのである。だが、それにもかかわらず、その誘惑に乗ると、必然的に、人類の幸福のためには、少なくとも数億の人間を抹殺しなければならなくなる。もちろん、ばかばかしいことである。(p357〜358)

 

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