< 引用その8 >

 一般に、音楽は人間の精神の崇高さのみを、あるいは、たとえ悪人だとしても、なにかロマンチックな悪人のことを語らねばならぬと考えられているからだ。しかし、英雄や悪人がそれほどいるものではない。大多数は平均的な人々である。白でもなければ黒でもない。薄汚れた印象を与える灰色である。
 このようなはっきりしない色彩の環境のなかで、現代の基本的な葛藤が発生している。これは巨大な蟻塚であり、そのなかで、わたしたちはみな這いずりまわっているのである。
 わたしたちみんなの運命はおおむねよくないものだ。乱暴に、無慈悲に取り扱われている。ところが、誰かが少しでも高く這いあがるや、すぐさま、ほかの人々を苦しめ、滅ぼそうとしはじめるのだ。
 わたしの考えでは、まさしくこの状況に特別な注意を向けるべきである。大多数の人々のことを大多数の人々のために書かなければならない。そして、真実を書かなければならない。これはリアリズムの芸術と呼ばれるだろう。(p175)

 

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