以下の文章は、もともとニフティサーブ上でお知り合いになったパソコンライター「さぼり猫」さんの主催するホームページ「Group Teatime」に掲載していただくために書いたものです(たしか95年頃だったかと思います)。残念ながら、現在ではそのページは休止状態となっていることもあって、今回自分のホームページに再録することにしたものです。冒頭にある「連載」云々はその名残ですが、結局のところ「第一回」=「最終回」になってしまいました(^^;)。

 おおむね原文のままですが、情報的に古くなってしまった部分などがあり、若干の手直しをしています。

 元のファイルを紛失してしまったため、今回「さぼり猫」さんにご無理を言って発掘・逆送付いただきました。ここにお礼申し上げます。


正しいシェイビング道


―――  序ノ段 《始めに》  ―――

 連載(?)エッセイの第一回目の今回。何を書こうかと悩んだのですが、とりあえずは「役立つ情報」なるものをのっけてみようかと思いました(^_^)。

 役立つ情報とはいうものの、実際に書いてみると、人類の半数を占める女性や、残りの多くを占めるであろう年少の方、さらに残りの方の多くを占めるであろう髭(ひげ)の薄い方には全く関係のないネタになってしまったのが、ひどく心残りでならないのですが……。
 そう、今回のテーマは「毛深いあなたに送る・正しいシェイビング講座」なのであります\(^o^)/

 電気カミソリなんて役には立たない。T字型の二枚刃のカミソリ以外は無用の長物だと言い切れるあなた。この文章は、そういうあなたのために書いております。

 自慢ではありませんが、筆者はとても髭が濃いタチで、床屋に行くたび、必ず「どうやって剃っているの?」と聞かれるほどなのです(実話)。そんな筆者が長い長い時間と知恵の限りとを費やして練り上げた必殺の秘術を、いまここに公開! これでもうあなたも、カミソリ負けしてヒリヒリ痛む肌を押さえ、寝苦しい夜を過ごすことはなくなるハズです(^_^)。


―――  壱ノ段 《蒸す!》  ―――

 シェイビングは「蒸し」に始まり「蒸し」に終わると言っても過言ではありません。それほど重要なのが「蒸し」なのであります。にも関わらず、この「蒸し」の重要性に気がついている人は、とても少ないのが実状です。全く嘆かわしいことであると言わずにいられません。
 床屋で髭を剃るときには必ず蒸しタオルを顔にのせてくれますが、あれは決してダテではありません。はっきり言ってしまえば、シェイブがうまく行くかどうかの70%までは、この「蒸し」で決まるのです。これがいいかげんでは、どんな切れ味の良いカミソリを使ったところで、無駄というものです。

 それでは、具体的にはどのようにして蒸すといいでしょうか? 基本的には、蒸しタオルを使う方法と、風呂で蒸す方法とが考えられます。どの方法を選択するかは、あなたがいつ髭を剃っているかに関わってきます。

 もしあなたが、夜に髭を剃ればいいと考えるなら、入浴中に剃る(=風呂で蒸す)ことをお薦めします。筆者も、この方法を愛用しています。難点は翌朝までに髭が伸びてしまうことですが、しっかりと深剃りすれば、ほぼ問題なく翌日を過ごせることと思います。

 一方、もしそれでは不十分だとお考えなら、ちょっと早起きしてシェイブする事になります。
 もしあなたが朝風呂の習慣をお持ちなら問題はありませんが、多くの方はそうではないでしょう。となると、考えられる可能性はシャワーを浴びるか蒸しタオルを使うかですが、実はこれは選択のように見えて選択ではないのです。というのは、シャワーを浴びる程度では顔は充分蒸されないからです(顔にシャワーを吹き付ける程度では、まず大した効果はあがらないことでしょう)。よって、どのみち蒸しタオルは使うことになります。
 つまりこれは、朝シャワーを浴びるか、浴びないで済ますかの選択に過ぎないのです(無論、これはこれで重要な選択です。が、シェイビングとは関係ない話になってしまいますので、ここでは論じません)。

 以上をまとめるとこうなります。

 ◎夜髭を剃ればいいと考える人は、風呂で蒸す。

 ◎朝髭を剃るべきだと考えている人は、蒸しタオルで蒸す。

 それでは、以下に具体的な蒸し方の手順を紹介しましょう。

 ※ 風呂での蒸し方

 お風呂にのんびりと、深く浸かって下さい。しばらくするうちに、顔がほてってくることでしょう。この状態からシェイブに取り掛かっても、それなりの効果は期待できます。実際、多くの人がこのレベルで満足しているものと思われます。しかしながら、この文を読んでベスト・シェイブを目指す皆さんは、この程度では妥協しないで下さい。

 ある程度お湯に浸かって顔がほてってきたと感じたら、頭まで一気に湯船に潜ってしまうのが正しい方法です。犬かきの要領で、顔面にお湯を吹きかけると、いっそう効果的。息が苦しくなったら顔を上げて、また同じ事を行います。
 そのうち(お湯の温度にもよるが、1〜3分くらいのうちに)突然、顔がお湯を含んで膨張するかのような(あるいは、顔中の毛穴が一斉に広がるかのような)感覚を覚えることと思います。これこそが本当の「蒸し上がり」の状態なのです! この状態からシェイブを始めれば、剃り味も何もかも、今までとは全く別ものになるはずです。

 ところで、以上のことは自分の家の内風呂でやっている分には問題はないのですが、寮などの共同風呂では、若干の問題が起こります。風呂に潜っていると必ず「何をしているの?」と奇異の目を向けられたり「汚い」と言われたりするからです(当然といえば当然でしょうが)。かく言う自分も寮住まいだった当時、周囲の人に理由を説明しても全く理解してもらえず、変人扱いされました(^^;)。
 しかし、シェイビングの道を極めようという皆さんは、このような周囲の無理解に負けることなく、正しいシェイブを追求して下さい。なお、どうしても上記の方法を採れない場合には、後述の蒸しタオルを使うことになります。

  ※ 蒸しタオルによる蒸し方

 蒸しタオルを使う方法は手間がかかる割に、風呂での蒸しに比べて効果があがりにくいので、あまりお薦めできる方法とは言えません。が、髭を剃るとき、いつでも風呂に入れるとは限りませんので、いずれにせよマスターしておく必要はあります。
 さて、自分で蒸しタオルを作る方法ですが、これが結構面倒だったりします。

 理想的な方法としては、床屋などに装備されている、蒸しタオルを作る機械を購入することでしょう。しかし、一般家庭にこのような器具を置くのはあまりに不経済で、さすがにお薦めできません。また、この方法は出先では絶対に使えないことも明らかです。

 一番楽で実用的なのは、濡らしたタオルを電子レンジで加熱する方法でしょうか。この方法なら早く確実かつ簡単に、質の良い蒸しタオルを作ることが出来ます。難点は(当然ながら)電子レンジを持っていなければこの方法は使えないということ。また、この方法も出先などではまず使えないでしょう。

 もう少し汎用性は高いものの、難点も多いのは、タオルを熱湯につける方法。
 やり方としては、熱湯を用意して中にタオルを浸し、タオルが充分熱されたら引き上げて、程良く絞る。とまぁ、それだけなのですが、これがなかなか難しい。

 第一の問題は、やけどをしやすいこと。特にタオルを引き上げて絞るあたりが大変です。断熱用の手袋でも用意してやればよいのですが……。
 ちょっと熱い思いをするくらいのことは避けられないでしょうが、これのおかげで目が覚めるという思わぬ利点(?)は、あるかもしれません。いずれにしても細心の注意が必要となります。

 第二の問題としては、蒸しタオルの温度調整が困難なこと。いざ出来上がった蒸しタオルを顔に載せてみたら思ったより温度が低くてうまく顔が蒸されない、などというのはありがちな失敗です。
 温度面から考えると、なるべく熱いお湯にタオルを入れ、後で程良い温度まで下げるのがベターですが、あまり湯温を高くすると今度はやけどの危険が増えてしまいます。

 以上のように、熱湯による蒸しタオル作成法は難点が多く、できればあまり使用したくない手段であるといえます。しかし、場所を選ばず、大げさな器具も必要としないという点でこの方法に勝るものはありませんから、やはりこの方法はマスターしておく必要があるでしょう。

 さて、以上いずれかの方法で首尾良く蒸しタオルができましたら、顔に載せます。この時、あご・首の方にもしっかり掛かるようにして下さい。後は前述のような「蒸し上がった」感じがしたらOKです。一回でその感じが得られなかったら、何回かタオルを載せかえることになります。

 なお、蒸しタオルの水分量は多すぎず(絞りが弱いと顔に載せたときにお湯が垂れてくるので)少なすぎず(水分を全部絞り出してしまうと、保温力が激減するので)を心がけて下さい。


―――  弐ノ段 《拭く!》  ―――

 この項を独立させるのは、少し違和感があるかもしれません。要するに、顔が蒸し上がったら、シェイブの前にしっかりと顔を拭いて水気を取っておく。それだけのことです。が、これがまた実になおざりにされがちなので、あえて独立した項としました。これがいい加減だと、シェイビングフォームが肌に届かず、溶けて流れ去ってしまい、効果が得られません。


―――  参ノ段 《剃る!》  ―――

 しっかり蒸し上がった顔をさっと拭って、水気を払ったら、いよいよカミソリとシェイビングフォームの出番。実際に顔を剃っていきます。一般的に「シェイブ」と言った場合、この段階を指すことが多く、狭義のシェイビングといっても良いでしょう。

 ここでやることは、シェイビングフォームを顔中にぬりつけ、カミソリで剃る。それだけのことです。前項まででしっかりと蒸したあなたの顔は、どんな剃り方をしても問題はないはずです。何も考えず、「剃る!」だけです。

 残るのはカミソリとシェイビングフォームの選択ですが、これは結構議論の分かれるところでしょう。とはいえ、私の選択は決まっています。

 カミソリ=Gillette Sensor
 シェイビングフォーム=Schick Shaveguard

 ……です。

 カミソリは最初、某社のものを使っていたのですが、ある時ジレットセンサーに変えたところ、あまりの剃り味の良さにびっくりしました。これに比べたら、それまでのものはおもちゃ以下だと感じてしまったほどです(実話です)。一番髭の濃い部分でも、しっかり深剃りしてくれます。しかも、剃り味はつるつるの紙をなでるかのような滑らかさです。目詰まりしにくい構造のため、水洗いがしやすいのも二重マル。

 とはいいながら、実は筆者はジレット社の他のカミソリは使ったことがないので、比較できないのが申し訳ないのですが。読者の中でもしその辺に詳しい方がいたら、ぜひご教示下さい。

 一方、シェイビングフォームについては、シックのものが、効き目もさわやかさも、優れているように感じられます。ちなみにキャップの色が白=「脂っぽい肌用」、緑=「敏感肌用」、青緑=「乾燥肌用」となっています(筆者は白を愛用)。
 ただし、注意していただきたいのは、シェイビングフォームの合う合わないには個人差があるということです。もしシックの製品が自分の肌には合わないと感じられたら、ためらわず他の製品を試されるようお薦めします。


―――  四ノ段 《洗顔》  ―――

 この項を独立させるのも、いささか大げさかもしれませんが、弐ノ段と対応する内容でもあり、このような形にしておきます。
 剃り上がったら、ぬるま湯等でしっかりシェイビングフォームを落とし、その後、タオルでさっと水気を落とします。
 次項で見るように、顔にほてりが残っていること、適度の水気を残していることがここでのポイントとなります。よって、「ぬるま湯を使用すること」「顔を強く拭きすぎないこと(でも、弱すぎてもいけない)」に留意して下さい。


―――  伍ノ段 《アフターシェイブ》  ―――

 さあ、ここまでうまくいきましたでしょうか? これまでの各段をしっかり押さえていれば、きっと快適なシェイブが楽しめたのではないかと思うのですが。
 とはいえ、まだ気を抜いてはいけません。シェイビング後の手当てによって、後々の肌の感じが全然違ってくるものだからです。

 一般的には、ここで市販のアフターシェイブローションをつけるところでしょうが、これは実の所ひりひりするだけで、大した効果はないように思われます。ここでは、私独自の方法(正確には、私の父親が編み出した方法なのですが)をご紹介することにしましょう。

 「四ノ段」を終えて、まだほてりが残る、しっとりとした顔に私はアフターシェイブローション代わりの「あるもの」を塗ります。この「あるもの」とは何でしょうか? それはかの有名な「オロナインH軟膏」(大塚製薬製)なのです(^^;)。これをごく少量(多すぎると顔がベタベタします)指に取り、水気の残る顔に伸ばしていきます。溶けて乳液状になった軟膏がローションの代わりとなります(四ノ段で顔の拭き方が足りないと、軟膏が流れてしまい肌に届きませんので注意)。

 では「オロナイン」軟膏を使うメリットは何でしょうか? まずはカミソリ負け防止に絶大な効果を発揮します。もともとこの軟膏は外傷薬なのですから、その辺のローションがいくら頑張っても、この点でかなうわけはありません。
 そして、何と言っても安い! 単価自体から言っても、オロナインは安いのですが、それ以上に全然中身が減りません。なんといっても使用方法が使用方法ですから……。中瓶一つ買えば、ほとんど半永久的にもつんじゃないかという気がするくらいです\(^o^;)/。それだけ時間が経っても、全然劣化しないのもうれしいところです。
 実際私は、何人かの方にこれを薦めたのですが、最初のうち「顔がベタベタしそう」とか「ローションのピリッとした感じがなくて物足りない」などと言っていた彼らも、やがて「全然カミソリ負けが起こらなくなった」などと言って愛用しています。皆さんもぜひお試し下さい(^_^)。


―――  末段 《終わりに》  ―――

 以上でシェイビング講座は終わりです。いかがだったでしょうか? たかが「ひげそり」と軽視されやすいシェイブの技法ですが、究めると実に奥の深い世界であることがお分かりいただけたのではないかと思います。

 筆者も長い間、髭を剃ってきたわけですが、なかなかベスト・シェイブと感じられることはありません。いつも何かしら「至らなさ」を感じるのですが、逆に言えば日々これ学習というわけで、決して飽きることがありません。いつも新鮮な気分を味わえます。そして何より「これは」と思えるシェイブが出来たときの喜び! こればかりは実際に体験しない限り分からないでしょう。
 もし、自分は髭が濃くて面倒だ、とお考えの方がいらっしゃったら、ぜひ発想を変えてシェイビングと真剣に向き合ってみて下さい。きっと何かの発見があることでしょう。

 実際のところ、髭を剃るというただ一つの目的のために、全神経を集中して自己と向き合うシェイビングというものには、どこか独特の緊張感が漂います。それは恐らく禅や武道が持つ緊張感と本質的に同じものなのではないかと考えます。
 ひょっとしたら、シェイビングこそは天が男性に与えてくれた自己修練の契機なのかもしれません。

 最後になりましたが、文中で紹介した各製品のメーカーと筆者とは(製品を愛用しているという以外の)なんらの関係もないことをお断りしておきます(^_^;)。この一文が皆さんの今後のシェイブの一助となれば幸いです。

                             (..zzzZZZ..)

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